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まり心配していなかった。
しかし、息子は、幼稚部からの友だちは就職し、一方で専門的な勉強と新しい人間関係の中で、しだいにストレスが高まり、アトピー性の皮膚炎はひどくなるばかり。顔は赤くなり背中はゴワゴワになっていた。
退学後、三日間は終日眠っていたが、一週間ほどしてバイクの免許を取りたいと言い、「お金は年金が出るまで貸してくれ」生言う。
私は賛成ではなかったが、過保護で自主性のあまりない子なので、自分でやりたいという気持ちが大切かと思い、また何か自分でやることで自信が持てるようになればと考えてお金を貸すことにした。
教習所通いが始まった。十月ともなれば北の風は冷たく一ヵ月半が期限であった。阿寒下ろしの寒風の中でバイクの免許を取るための挑戦が始まった。厚着の嫌いな彼も、スニーカーの下にセーターやズボン下なども着込んで励んだ。
十月半ば、いよいよ受験のための聴カテストが行われた。耳掛け型補聴器の電池を取り替えて検査を受けたが、全然、駄目であると連絡が入った。補聴器センターに相談に行くと、「聴力検査は大丈夫と思うが、バイクに乗ることは賛成できない」と言われた。
翌朝、センター裏で最新型の箱型補聴器を借りて検査してもらった。静かな暖かい朝で、車から十メートル前に後向きに息子は立った。クラクションを鳴らすと反応したのでホットした。午後から公安で検査を受けたが夕方、教習所から「全然反応がない」と電話があった。

 

 

 

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